むだ時間を持つ1次遅れ系のPI制御パラメータの解析的な分析

プラントにむだ時間を持つ系の制御が難しいことを、
Ziegler Nicholsの限界感度法を試すなかで確認しました.

アクチュエータにむだ時間を持つ1次遅れ系をPI制御する場合について、
$ K_p, K_i $の取りうるパラメータの範囲について考えてみます.

この系の特性方程式は、
\[ (K_p + \frac{K_i}{s})(\frac{e^{-L \cdot s}}{\tau \cdot s + 1})+1=0 \] この特性方程式からラウス・フルビッツの安定判別法 (Routh–Hurwitz stability criterion)などから方程式を解かずに安定性を判定できれば良いのだけれど、この方程式は多項式ではなく、つかえません.

しかし、あらためて閉ループ伝達関数を求め、
\[\begin{aligned} G(s) &= \frac{P \cdot C}{1+P \cdot C} \\ &= \frac{(K_p s + K_i)e^{-L \cdot s}}{\tau \cdot s^2 + s +(K_p s + K_i)e^{-L \cdot s}} \end{aligned}\] もし、この伝達関数を部分分数分解できて、ヘヴィサイドの展開定理のように、
\[ G(s) = \sum_{i=1}^{\infty} \sum_{j=1}^{\infty} \frac{A_{ij}}{(s-a_{i})^j} \] などと表せれば、有理関数と同じように考えることができそうです [1].
すると極が全て複素平面の左半面にあれば系は安定と言えます.
⇒ すべての極が複素平面の左半面にある条件を求め、それを元に$ K_p, K_i $の範囲を求める段取りとする.


1. エルミート・ビーラー(Hermite-Biehler)の定理

伝達関数 $ G(s) $の極が全て複素平面の左半面にある条件を求める部分だけが難しそうです.
これについてはエルミート・ビーラーの定理を使って考えることができます[2][3].

先の特性方程式の左辺を変形し、以下のように $ \delta(s) $を定義する.
\[ \delta(s) = \tau s^2 + s + (K_p \cdot s + K_i) e^{-Ls} \] ここで、
\[\begin{aligned} \delta^*(s) &= e^{Ls} \delta(s) \\ &= (K_p \cdot s + K_i) + (\tau s^2 + s) e^{Ls} \end{aligned}\] とし、$ s = \omega i $ を代入して実部 $ \delta_r $と虚部$ \delta_i $で関数を表現すると
\[\begin{aligned} \delta^* (\omega) &= \delta_r(s) + i \delta_i(s) \\ &=(K_p \omega i + K_i) + (-\tau \omega^2 + \omega i) e^{L\omega i} \end{aligned}\] \[ \delta_r(\omega) = K_i - \tau \omega^2 cos(L \omega) - \omega sin (L \omega) \] \[ \delta_i(\omega) = \omega (K_p - \tau \omega sin(L \omega) + cos(L \omega)) \]
ここでエルミート・ビーラー(Hermite-Biehler)の定理から、

1. $ \delta_r(s) $の解と$\delta_i(s)$の解が、すべて実数で、重解はなく、互いに隔離している.

【注:解の隔離】
方程式 f(z) = 0 の解と方程式 g(z) = 0 の解が互いに解を隔離するとは、どちらの方程式も重解を持たず、大小の順において f(z) = 0 の隣接する 2 つの解の間に g(z) = 0 の1 つの解があり、また g(z) = 0 の隣接する 2 つの解の間に f(z) = 0 の 1 つの解があることを言う。

[3] あってよかった複素数
http://izumi-math.jp/F_Yasuda/complex_number/good.pdf

さらに
2. $ z=L \omega$として、
\[ \frac{d\delta_i}{dz}\delta_r - \delta_i \frac{d\delta_r}{dz}>0 \]
以上の1, 2を満たす範囲でG(s)の解は複素平面の左半面にあると言え、G(s)は安定.

これらから $ K_p, K_i $の関係を一般的に解くの私にはできませんでした.
(なので数値解析でお試してみます)


2. 定理を試してみる

実際に$ \tau = 1 $ $ L = 1 $の条件で(つまり$G(s) = \frac{1}{s+1}e^{-s}$)、
安定になる$ K_p, K_i $の範囲(境界線)を数値解析で求めたのが、こちらの範囲.

PI制御のチューニング結果を比較するため、ジーグラ・ニコルスの限界感度法(ZN限界感度法)やジーグラ・ニコルスのステップ応答法(ZNステップ応答法)で求まる結果もプロットしました.

両結果とも安定領域にきっちり入っていますね.
計算した条件ではステップ応答法の方がおとなしいチューニング結果になっていそうです.


もう少し掘り下げて勉強してみます.

参考文献

[1] ヘヴィサイドの展開定理
ヘヴィサイドの展開定理は有理型関数にも拡張できるとのことなので、大丈夫だと思います.

[2] Generalizations of the Hermite–Biehler theorem http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0024379599000695

[3] PID Controllers for Systems with Time-Delay
http://msc.berkeley.edu/PID/modernPID3-delay.pdf

[4] あってよかった複素数
http://izumi-math.jp/F_Yasuda/complex_number/good.pdf

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